ダートトラック走法の「二つ」 基本の基:ダートトラック > 右手

ダートトラック走法について語る時には、最初に次の「二つ」を区別する必要があります。
「本物のダートトラック走法」
「初心者向けのダートトラック走法」
このうち、「初心者向けのダートトラック走法」は、正しくはダートトラック走法ではありません。
それはダートトラック走法入門者向けのとっつきやすい手法であり、正しいダートトラック走法とは走法自体が異なる場合があるからです。
簡単にダートトラックの世界を体験してもらうための入門者に向けたもので、本来の走法とはかけ離れている場合があるかもしれないからです。
さらに、低次元時の特徴である、正しくなくても大きな問題にならないという、実は大問題があります。
「ダートトラックには鉄下駄が必須で、必ず三点走行である」とか思いこんでしまったりするわけです。
低次元走行である「ダートトラック走法もどき」を、さも「ダートトラック走法」と信じ込んでしまう危険性があるのです。
というわけで、「初心者向けのダートトラック走法」は「ダートトラック走法」とは異なり、「ダートトラック走法」とは区別、あるいは排除することが、
正しく「ダートトラック走法」を考察・解説するための第一歩ということになります。
次に「本物のダートトラック走法」について語る時には、次の二つを区別する必要があります。
「慎重な時のダートトラック走法」
「理想的な状態でのダートトラック走法」
区別するわけは、これが見た目にも実際のライディングにも大きく差があるからです。
「理想的な状態でのダートトラック走法」は、オートバイに優等生的に「ただ乗っているだけ」の状態です。
走法の説明がいらないくらいスムーズで自然なライディングをしているときのことです。
自信をもって最適な走法ができているときのフォームになります。
着座位置は次元が高くなればなるほど後ろ寄りになってきます。
ブレーキスライドの量もパワースライドの量も減り、慣性ドリフトにシフトしていくからです。
対して「慎重な時のダートトラック走法」の特徴は、着座位置も右手のポジションも大きく変わってきます。
慎重な時とは、転倒や、接触や、旋回できない、大きく振られる、などの予測できない状態に備えようと思っているときのことです。
まず、着座位置がノリノリの時より前寄りになります。
なぜなら、理想的な着座位置では、大きな振れに対応できないか、反応が遅れバランスを崩しやすいからです。
よろしくないと思ったら、着座位置を前方に移していきますが、その時の右手の取り扱いが特徴的になります。
この時の右腕には次の「二つ」があります。
「邪魔な時」
「支えの時」
この違いは大きいです。
ダートトラックライディングではスライドや路面の状態などから、急激なスライドや、急激なグリップ回復などによりマシンやライダーは思いもしない体勢になる時があります。
この時に右腕のポジショニングとして、脇を締めたりとか、ごく自然なポジションとかだったりした場合、マシンが振られたときに自らの右ひじが邪魔になる時があります。
ひどい時には脇腹にひじ打ち食らわしたり、手首を痛めたりします。
そのために、脇を締めるのであれば右側面の胴を前方に出したり、右ひじを上に上げてライディングしたりすることになります。
振られを抑えるためとはいえ、腕力が必要なハンドリングには頼ったりしないので、実は右腕はいらないくらいです。
参考までに足もいらない証拠画像です。
外脚荷重がいらないない証拠動画
「いや、脇を締めて積極的にハンドリングすることはできるぞ」とか
「いや、右ひじを高く上げてハンドルを抑え込むことはできるぞ」とかお思いでしょう。
しかし、ここでは一旦、それらは「初心者向け走行」ということで除外します。
たとえば私レベルの場合なら「ハンドリングを行いたい」や「フロントを抑え込みたい」は、
非常に効果的に働き、さも「ダートトラック走法を会得した」気分になることはできるのですが、
前述のとおり次元が低すぎるので却下です。
では、実際にトップレベルのライダーがやっている「右ひじを上げてハンドルを抑え込んでいる走法」は何なのか?
これは、「ハンドリングを行いたい」ためでも、「フロントを抑え込みたい」ためでもありません。
正しい理由は、振られた時の重り、すなわち、胴体と脚回りの、慣性質量を少しでも減らしたいときのテクニックです。
そもそも前方に移動することに加え、右腕をアンカーにしてリジッド化させることにより、振られた時の反応速度を上げるのです。
そもそも反応速度の遅い脚や腰に頼るどころか、邪魔者扱いです。
もちろん、振られ時には脚や腰による「何とか加重」の力も借ります。
かくして、計画的に右腕を支えにできるようなライディングに持ち込みます。
このようなわけで右腕を「邪魔な時」とするか「支えの時」とするかでライディングは大きく変わります。
どちらを選ぶかは、路面状況や、自分の技術レベルによって変わる物理的な面と、転倒や挑戦などに関してのメンタルによって変わります。
ノリノリの時でも脇を締めるライダーと、上げるライダーとがいますが、主にバンク角やフォームの違いによる「邪魔者処理」と思っていいかもしれません。
このようなわけで「基本ノリノリ」なマルケスにしても思いっきり肘を上げてライディングするときはあるということです。
(マルケスがデコボコ路面で思いっきり肘を上げている動画を見たことがあるのですが、今回見つけられませんでした)
代わりにマルケスのスローモーションをどうぞ。
ノリノリな動画もどうぞ。
倒れても転ばない証拠動画。バンク角75度くらい?
というわけで
慎重なライディングは、安全だとしても、理想的なダートトラックライディングではありません。
60点だったりするわけです。
で、100点満点の走法は「理想的な状態の時でのダートトラック走法」を極めたもので、
「最小限の操作でスムーズに走り、体は慣性の中心に位置し、余計な力を加えない」だと思います。
侵入時のリアの振り出しの加重タイミングも伸身抜重ではなく、屈伸抜重で行います。※
やっぱり王者、ケニー・ロバーツでしょう。
しかし素人がその最小限の操作をしても、
そのまままっすぐ突き進んでしまうことでしょう。
そんなわけで100点満点走法に近づくためには、まずは割り切って60点走法を極める必要があります。
「二つ」の走法をそれぞれ会得していく必要があります。
それは、スタートや1コーナーの進入のテクニックと同じようなものです。
通常の手順では、予選を通過しないとスタートや1コーナーの進入自体を体験できません。
そのためには、やっぱり基礎練習だったり、それに特化したメニューを用意するしかありません。
結論は、考えるより習え! 習うより慣れろ! ですかね。
バレンティーノ・ロッシの私設コースで練習させてもらうとか……。
では。
※伸身抜重と屈伸抜重の解説を次回行います。
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